木曜映画サイト アラン・ドロンが美男子の代名詞だった頃

 先日渡辺徹氏が亡くなられた。
 彼は「太陽にほえろ」のラガー刑事役で1981年にデビューした。「太陽にほえろ」は私が青少年時代に熱心に見ていた刑事ドラマであり、彼の演技もよく見ていた。その後、彼は体格俳優としてバラエティ番組などでも活躍するようになった。それもそれで楽しく拝見していた。ご冥福をお祈りします。

 さて、渡辺徹の奥様が榊原郁恵である。彼女はアイドル歌手としてデビューした。 「夏のお嬢さん」などのヒット曲がある。その彼女の歌った曲のひとつ、「アル・パシーノ+アラン・ドロン<あなた」をご存じだろうか。
 1977年の曲である。作詞作曲:森雪之丞。

 アラン・ドロンのふりなんかして
 甘い言葉 ささやくけど

 アラン・ドロンという映画俳優は、1970年代後半の日本で美男子の代名詞だった。フランスという国、パリという都市への憧れもあっただろう。美男子、あるいはハンサム、と言えば誰を差し置いても当時はアラン・ドロンだった。多くの日本女性の憧れの的だった。
 一方、アル・パシーノ(現在はアル・パチーノと表記されている)のほうの歌詞は、「ちょっとニヒルに笑うけど」だ。彼は美男子というよりもむしろ、男から格好いいと思われるほうの男性だった。

 さて、私が映画を映画館で見始めたのは高校生の頃で、ちょうど榊原郁恵が件の歌を歌っていた時期にあたる。だが私は、映画館でアラン・ドロンを見ることはなかった。仙台では、どこの映画館でも封切りでアラン・ドロンの映画をかけることがほとんどなかったのだ。
 美男子の象徴たる映画俳優を映画で見られないとは如何なることか。時期がずれていたのである。
 アラン・ドロンの代表作というと、

 太陽がいっぱい、若者のすべて(1960)、地下室のメロディー、山猫(1962)、パリは燃えているか(1966)、冒険者たち、サムライ(1967)、シシリアン(1969)、レッド・サン(1971)、アラン・ドロンのゾロ(1975)

と数多い。しかし1970年代後半からその数を減らしていく。つまり、美男俳優の代表として日本で扱われながら、出演映画が街でみられない。そんな不思議な映画俳優だったのが1970年代後半の彼だった。
 その時期、アラン・ドロンはまるで、実態のない美男子の幽霊だった。
 というわけで、かなり時が流れてから、テレビで流れる旧作によって私はアラン・ドロン出演作を観ることになった。上にあげた作品のほとんどはここ10年くらいの間に見たものだ。
 野心に溢れ、それゆえに危うさが同居する若者、そんな役柄が多かった。それもここ10年くらいの間に知ったことだ。

 先日は「ボルサリーノ」(1970)を見た。ジャン=ポール・ベルモンドと共演した作品。当初ひとりの女を巡って殴り合いの喧嘩を演じた二人の男はなぜか意気投合し、協力して暗黒街でのし上がっていく、という話だ。
 歴史的な傑作、というほどではないが、およそ2時間を退屈せずに過ごすことが出来た。ここでもまた、アラン・ドロンは野心満々な危うい若者を演じていた。そしてもちろん、美男子であった。

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