木曜映画サイト 「PERFECT DAYS」劇中曲の歌詞を読んで

 映画「PERFECT DAYS」では、主人公平山が流すカセットテープから音楽が流される。
 そのうち私がよく知っている曲は、“THE HOUSE OF THE RISING SUN”と、“(SITTIN’ ON)THE DOCK OF THE BAY”の2曲。その歌詞を思い返すと、これは容易ならざる選曲だぞと思った。それでよく知らない他の曲の歌詞も調べてみることにした。
 参考にしたサイトは、【全曲和訳】映画『PERFECT DAYS』劇中曲 『PERFECT DAYS』劇中曲の全リスト!心震える名曲の数々。、それと映画の公式サイト
 以下、歌詞の抜粋の和訳は私が行ったものだ。


“THE HOUSE OF THE RISING SUN” The Animals 1964

I'm going back to end my life
Down in the rising sun

 人生を終わらせるために
 朝日のあたる家に戻るの

・ばくち打ちの男と付き合って破滅した女の歌


“PALE BLUE EYES” The Velvet Underground 1969

I've had but couldn't keep
Linger on your pale blue eyes

 手に入れたのに、続けることは出来なかった
 ここに居続けて、あなたの淡く青い瞳

・人妻に恋して、それを忘れられない男


“(SITTIN’ ON)THE DOCK OF THE BAY” Otis Redding 1968

Looks like nothing's gonna change
Everything still remains the same
I can't do what ten people tell me to do
So I guess I'll remain the same, listen

 何も変わりゃしない 何もかもそのまんまさ
 人の教えてくれることが俺には出来ない
 だからずっとこのまんまなんだろう

・故郷を出てサンフランシスコにやってきたが、毎日無為に過ごす男


“REDONDO BEACH” Patti Smith 1975

Never return into my arms 'cause you were gone gone
Gone gone, gone gone, good-bye

 あなたはもう私の腕には帰らない
 だって行ってしまったんだもの

・レズの恋人と口喧嘩し、相手は出ていった。そして相手は自殺し二度と帰らない


“(WALKIN’ THRU THE)SLEEPY CITY” The Rolling Stones 1965

I'm tired of walking on my own
It looks better when you're not alone

 俺は一人で歩くのに疲れたんだ
 君が一緒ならよっぽどいいさ

・眠っている街にいた男のボーイミーツガール


“青い魚”金延幸子 1972

 青い海も 青い魚も みんな昔 手にしたもの
 今 私の この手のひらの中を 冷たい風だけが 通りぬけてゆく

・何かが失われてしまった歌


“PERFECT DAY” Lou Reed 1972


I thought I was someone else

Someone good

 自分が自分じゃない誰かなら良かったのに
 もっと良い人なら

・彼女と幸せに過ごして完璧な一日だ、と繰り返している所に上記の歌詞が挿入される


“SUNNY AFTERNOON” The Kinks 1966

The tax man’s taken all my dough
And left me in my stately home

 税務署員が全部持って行っちまった
 俺は一人で邸宅に残された

・贅沢に暮らしたいのに搾取されて出来ねえんだ


“朝日のあたる家” 訳詞:浅川マキ

 私が着いたのはニューオリンズの
 朝日楼という名の女郎屋だった

・上記“THE HOUSE OF THE RISING SUN”を浅川マキが訳した。
 映画では石川さゆりが歌う。ギターがあがた森魚。
 日本語だと、より直接的な恨み節に聞こえる


“BROWN EYED GIRL” Van Morrison 1967

So hard to find my way
Now that I'm all on my own
I saw you just the other day
My, how you have grown!

 自分の道を見つけるのは難しい
 いま僕は一人きりだ
 ついこの間、キミを見かけた
 ずいぶん成長してしまったものさ

・女の子との楽しかった日々が綴られるが、後半にそれが過ぎ去った過去のものと明かされる


“FEELING GOOD” Nina Simone 1965

It's a new dawn

It's a new day

It's a new life for me
I'm feeling good!

 新たな夜明け
 新たな一日
 私の新たな人生
 なんていい気分

・自由を手にした、と歌い上げる。その自由を手にするまでに何があったのか。


 1964年から1975年までの曲。
 私がリアルタイムで聞いていた曲はない。私が洋楽を聞き始めたのが1975年頃からなので、惜しい所ですれ違った感じである。最初にあげた私がよく聞いた2曲も私にとってはオールディーズだ。
 選曲は監督のヴィム・ヴェンダース自身が行ったという。彼は1945年生まれなので19歳から30歳。まさにリアルタイム曲群である。
 物語では主人公の平山が選曲したことになっている。その平山の年齢だが、ヴェンダースと同い年なら79歳でちょっと年を取りすぎと思う。演じた役所広司が1956年生まれなので、主人公もそれぐらいなのだろうか。だとすると洋楽へのアンテナが子供の時から高かったということになる。現実の役所広司よりも、役の平山のほうが5歳ぐらい年上という気がする。

 さて、思った通り、一筋縄ではいかない曲ばかりだった。「素敵な女の子とつき合えてハッピー」「私の彼ってすごくかっこいいのよ」みたいな単純な歌がない。
 それは主人公、平山の屈託、過去との関りや決別を暗示するものだろう。
 そう思うと平山は、以前“SUNNY AFTERNOON”のように、ものすごく稼いでいたんだけど税金も高かった生活を送っていたのだろうか。
 平山の現在の日々は、彼なりの“PERFECT DAY”なのだろう。しかし、そこに至るまではいろいろあっただろうし、その“PERFECT DAY”に満足はあっても100%納得しているわけではあるまい。

 ラストシーン、ニーナ・シモンの「フィーリング・グッド」が流れる中、平山は泣きながら笑う。「パーフェクト・デイ」の中にあっても、屈託も後悔も諦念もある。人生は単純ではない。これらの曲群のように一筋縄では行かないのだ。

この記事へのコメント