木曜映画サイト 「黒い罠」という紆余曲折映画

 オーソン・ウェルズ監督の「黒い罠」を観た。
 私はもともと古い名画を観るのが好きなのだが、この映画はレンタル店で偶然手に取ったものだ。オーソン・ウェルズかぁ、観てみようか、ぐらいな。

 さて、私はバブルの頃に買った「ぴあ CINEMA CLUB '89」の洋画篇と邦画篇を現在でも持っている。この本は、その当時に観ることが可能な、簡単に言えば、当時ビデオ化されていた映画は全て載せるというコンセプトで作られていた。例えば「黒部の太陽」は、当時石原裕次郎が映画館で観て欲しいと思ってビデオ化を望まなかったらしく、有名な映画であるのにこの「ぴあ ~」には載っていない。
 そしてこの、「黒い罠」も載っていない。当時ビデオ化されていない、ということは製作者側がビデオ化を望まなかったか、権利上のもめごとがあったのか、もしくはビデオ化しても売れない、と判断されたということである。恐らくは売れないと思われたのだろう。

「黒い罠」は1958年の公開時売れなかった。
 ウェルズが撮影・編集後、難解な映画と判断した役員側が勝手に再編集。ウェルズが怒って自分の意見をメモに残したが無視。さらに編集して短縮し公開。そして興行的に失敗した。
 失望したウェルズはハリウッドと離れてヨーロッパに拠点を移した。

 1960年代にこの作品はヨーロッパで絶賛され再評価された。
 オーソン・ウェルズの死後1995年、ウェルズのメモをもとに再編集され、さらに好評を博した。
 私が観たDVDもこの「修復版」である。

 観たら難解な映画だった。面倒なのであらすじは書かない。
 モーテルの夜間勤務者が変な演技をしている、あれは即興で演じたらしい、とか。
 ヒロインの綺麗な新妻はモーテルで酷い目に遭うのだが、演じたジャネット・リーは「サイコ」でもモーテルで酷い目に遭っている、とか。
 冒頭の長回しをその後、たくさんの映画で真似された、とか。
 蘊蓄を語り出すと止まらない映画であるらしい。

 酒場女の化粧の濃いおばさんが草薙君に似ていると思ったら、名女優マレーネ・ディートリヒだった。そこが私の驚いたところである。

 オーソン・ウェルズは1985年に亡くなった。この映画に限らず、紆余曲折の多い映画人生であった。
 晩年は英会話教材のナレーションをしていた。亡くなった時、私の友人が「英語の教えすぎで死んだんじゃねえか」と言ったのを覚えている。

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