追悼 楳図かずお

 私が最初に読んだ楳図かずお漫画が何かというと不明である。
 幼少の頃、私の住む町にはまだ貸本屋があった。姉がよくそこからホラー漫画を借りてきていた。その中に楳図作品があったかもしれない。定かではないが、未就学児童の頃からあの絵柄を見ていたような気がする。
 なお私はホラーを映画もドラマも漫画も小説も苦手としている。私にとって楳図かずおは、ずっとその才能を尊敬しながらも、深入りを恐れ続けた漫画家だった。「おろち」や「イアラ」は恐る恐る読んでいた。

 楳図かずおは「ウルトラマン」を漫画化している。
 これが、間違いなくウルトラマンの物語なのだけれども、楳図漫画なのである。バルタン星人やメフィラス星人とウルトラマンが対決する宇宙人ヒーロー漫画でありながら、楳図ホラーテイストなのだ。読んでいて、頭がぐらぐらしたのを覚えている。

「漂流教室」はホラーというよりも、優れたSF漫画として読んでいた。
 人間の醜さを次々と露わにしながらも、愛情を讃える恐るべき作品だった。
 余談だが私が大学生の時、模試の試験監督のアルバイトをした。同じアルバイトをした友人が「漂流教室」を持ち込んでいた。試験監督はどうしても暇な時間がある。その時に彼は漫画を読もうとしたのだが、その漫画で決して笑ってはいけないと考えたからだという。

 楳図かずおは少年少女が大人になる時期というものに、相当なこだわりがあったようだ。
「14歳」という漫画があるが、その年頃の少年少女を主人公にした漫画を何度も書いていた。そうした作品群の中で「わたしは真悟」が好きだった。そのラスト、機械が母親のメッセージを伝えるために父親を追い求める場面は感涙ものだった。

 ギャグ漫画の「まことちゃん」は好きではなかった。私には下品に思えたのだ。
 私が最も好きだった楳図漫画は「まことちゃん」の前に書かれた「アゲイン」だ。
 老男性が謎の薬を飲んで15~16歳ぐらいの年齢になってしまう。その後のドタバタを描いたギャグ漫画だ。老人は若くなった自分が、何歳に見えるのかわからない。それを確認するためにポルノ映画館に入っていくくだりなど爆笑ものであった。

 ひとりの巨大な才能が亡くなられた。謹んで哀悼の意を表するものである。

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